:::【観戦記事】 シングルエリミネーション第1回戦:棚橋 雅康(ウカツの森/Onogames) vs. 川上 真太朗(コミかる堂桐生店/Team.ムラシュー)
By Yohei Tomizawa
輝くスポットライトの下で、棚橋の姿を最後に見たのはいつだったろうか。プロツアートップ8、2度のグランプリトップ8と素晴らしい戦歴をもつ彼は、いつの間にかトーナメントの荒波に飲み込まれていた。
いや、筆者が知らない棚橋の姿はグランプリ会場にはあったのかもしれない。それでも『グランプリ・シドニー2010』を最後にトップ8からは遠ざかり、初日全勝を果たした『グランプリ・静岡2014』でも、トップ8プレイヤーの中に彼の名前を見つけることはできなかった。
そこから3年。腐らず、止まらず、諦めず。地道にPPTQを回り、各種大会に参加を続け、そして。
棚橋は『グランプリ・静岡2017春』で見事トップ8入賞を果たし、再び自身の存在を強くアピールしたのだ!
その後は長野・新潟のプレイヤーで構成された“Onogames”と呼ばれる競技志向の強い集団を立ち上げる。『BMO Vol.10 Sunday Modern』や『日本モダン選手権2018・夏』で立て続けに準優勝と結果を残し、自他共に認める“Onogames”のモダン担当となっている。
棚橋の上衣はいつも通りの黒色のTシャツ。胸部分に“Onogames”のロゴが刻印された勝負服だ。
『The Finals 2018』の出場権をかけ、最後の戦いが始まる。
:ゲーム1
先手の棚橋はマリガンから土地が2枚で止まってしまう不運に見舞われ、キャントリップを駆使するが中々マナが伸びてくれない。対照的に川上は《天才の片鱗/Glimmer of Genius》で手札、マナともにリードする。
なんとか4マナ目に辿り着くと、棚橋はキーカードである《鼓舞する彫像/Inspiring Statuary》をキャスト。川上は小考後スルーし、《排斥/Cast Out》で対処しようとするが、間髪入れずに《金属の叱責/Metallic Rebuke》でカウンター。
キーカードは守った。その代償としてタップアウトとなり、偉大なプレインズウォーカーの登場を許してしまう。《ドミナリアの英雄、テフェリー/Teferi, Hero of Dominaria》である。
このカードがある限り、追加ドローとパーマネント対処が約束される。川上は《ドミナリアの英雄、テフェリー/Teferi, Hero of Dominaria》を守りつつ、棚橋のキーカードをカウンターするだけでいいのだ。
棚橋のデッキに直接プレインズウォーカーを破壊できるカードはない。《金属紡績工の組細工/Metalspinner's Puzzleknot》、《改革派の地図/Renegade Map》とデッキを掘り進め、コンボパーツをかき集める。
しかし《ドミナリアの英雄、テフェリー/Teferi, Hero of Dominaria》が着地した時点でゲームは終了となってしまったようだ。余剰ドローにより毎ターン確実にセットランドを続き、《金属の叱責/Metallic Rebuke》をケアできる9マナで《奔流の機械巨人/Torrential Gearhulk》がキャストされると、通さざるを得ない。突きつけられたタイムクロックは4ターンだ。棚橋は4ターン以内にゲームに勝利するか、《奔流の機械巨人/Torrential Gearhulk》を対処するしかない。
2ターンの内に集められるだけのアドバンテージをかき集め、残ライフが9となった川上のエンドに仕掛けていく。先ずは《逆説的な結果/Paradoxical Outcome》をプレイするが、川上はX=2の《中略/Syncopate》。何の、本命はここから。
自身のターンに入り《鼓舞する彫像/Inspiring Statuary》、《否認/Negate》。
再度《鼓舞する彫像/Inspiring Statuary》、《不許可/Disallow》。
棚橋と言えど、これ以上対抗手段を持たなかった。
棚橋 0-1 川上
「凄くいいプレイヤーがいるんですよ。ほら、見てくださいよ、この写真。」
コミかる堂の代表から見せられた画像には《ウルザの後継、カーン/Karn, Scion of Urza》を手に、力強くポーズを決める川上 真太朗の姿があった。
川上 真太朗なんて知らない。そういう方が大半だと思う。県外の大会へ足繁く通うわけでもない。特に目立った戦績を残しているわけでもない。
ただコミかる堂のフライデーナイトマジックとPPTQには必ず参加し、時折突破者一覧に名を連ねる。地元を愛し、コミかる堂を愛し、仲間を愛し、マジックを愛するプレイヤーだ。
特徴的なのは、大会で見せる彼の笑顔だ。大会であろうとカジュアルドラフトであろうと、彼は心の底からマジックを楽しんでいるような満面の笑みを浮かべている。コミかる堂代表のSNS上には、彼の写真があふれている。
「オレが、川上 真太朗だ。一緒に楽しくマジックしようぜ!。」と言わんばかりに。
:ゲーム2
《改革派の地図/Renegade Map》で土地を確保すると《練達飛行機械職人、サイ/Sai, Master Thopterist》を召喚し、《羽ばたき飛行機械/Ornithopter》でトークンが生み出す。今度は棚橋がイニシアチブを握る。
川上がドローゴーで過ごす中、飛行機械トークンが静かにクロックを刻み続ける。
飛行機械トークンの2体目が生成されたエンドに、川上は《排斥/Cast Out》で《練達飛行機械職人、サイ/Sai, Master Thopterist》本体を対処。自身のターンに入ると《試練に臨むギデオン/Gideon of the Trials》をキャストするが、棚橋の《暗記+記憶/Commit+Memory》でカウンターされる。
6マナ目をセットすると再度《試練に臨むギデオン/Gideon of the Trials》。ここは通り、トークン1体が封じられる。
残り3マナ。棚橋はここが勝負所と《鼓舞する彫像/Inspiring Statuary》をプレイし、《不許可/Disallow》に《金属の叱責/Metallic Rebuke》を合わせる。そのまま即席で《逆説的な結果/Paradoxical Outcome》をプレイし、2ドローしつつトークンを3体とする。
狙っていたのは棚橋だけではない。川上は《浄化の輝き/Cleansing Nova》をキャストし、《練達飛行機械職人、サイ/Sai, Master Thopterist》以外のパーマネントを根こそぎに。《試練に臨むギデオン/Gideon of the Trials》は《練達飛行機械職人、サイ/Sai, Master Thopterist》を封じず、クリーチャー化で打点を刻む。
流れたのなら再構築すればいい。棚橋は《金属紡績工の組細工/Metalspinner's Puzzleknot》、《予言のプリズム/Prophetic Prism》でドローを進めつつトークンを生成。《試練に臨むギデオン/Gideon of the Trials》を潰すためアタックしつつ、自身へのダメージはトークンで受けながらドローに変換していく。
だが《光り物集めの鶴/Glint-Nest Crane》が《本質の散乱/Essence Scatter》されたあたりから、棚橋の動きが鈍くなる。手札の差もあるが、どうやら限定的なリアクションスペルばかりが集まってしまったようだ。《鼓舞する彫像/Inspiring Statuary》はカウンターされ、逆に《奔流の機械巨人/Torrential Gearhulk》は着地を許してしまう。
《試練に臨むギデオン/Gideon of the Trials》こそ打ち取るが、棚橋自身のライフも5。必死にチャンプからのドローを繋ぎ、《奔流の機械巨人/Torrential Gearhulk》へと遂に《暗記+記憶/Commit+Memory》をプレイする。
川上は迷わず《ジェイスの敗北/Jace's Defeat》をプレイし、棚橋は《否認/Negate》。重ねるように《否認/Negate》がプレイされると、チャンプブロックでやり過ごす。
棚橋の場に自身を守るクリーチャーは、いない。《ウルザの後継、カーン/Karn, Scion of Urza》を最後の砦としてキャストすると《否認/Negate》。これが通らないことにはゲーム自体が続行不可能となってしまうため《暗記+記憶/Commit+Memory》でカウンターを目論むが、川上は許可しない。《不許可/Disallow》を唱え、レスポンスを待つ。
棚橋が投了を宣言すると、ゲーム中の真剣な顔が嘘のように、川上ははじける笑顔に変わった。
棚橋 0-2 川上
川上 真太朗、『The Finals 2018』出場権獲得おめでとう!